※この物語はフィクションであり、
現実に存在する人物、団体、
出来事とは一切関係ありません。
連続ゴルフ短編小説
- Over The Green -
(第3話)
ー 18歳 ー
僕らは高校3年生になった。
結局、みどりは予定どおり、
今年の△△女子アマチュア選手権を
競技人生の最後として
ゴルフ部を引退した。
しかも、プロテストを受験するような
レベルの選手ばかりの中で、
みどりは、全国で4位になった。
夏休みも終わり、
秋の文化祭も過ぎたある朝
みどりは突然、朝早く登校するようになった。
みどり
「壱田くん、おはよう」
ぼく
「浮島さん、おはようございます」
みどり
「今日から、私も早く来て朝は勉強することにするわ。もうやることもないし…」
ぼく
「やることって何?」
みどり
「毎朝5時から素振りして、アプローチの練習していたんだけど…
ゴルフ部の試合も終わっちゃったから。当分ゴルフはお休みかな」
ぼく
「全国4位ってすごいよね!」
みどり
「ありがとう。でも私にとっては順位は別にいいの。
プロを目指していたわけではないし、ただゴルフが大好きだったから。
これから私は受験生になります。ということで、ルーティーンを変えます」
ぼく
「ルーティーン??何それ??」
ぼくは、その言葉の意味がよくわからなかった。
みどりによれば、
「ゴルフは究極の準備のスポーツで、また全ての出来事も同様に準備で決まる」
らしい…
ぼくはこの年までそんなことを考えたことがなかった。
動作のスイッチを入れたり、集中力を高めるための
「一定の手順」のことをルーティーンというらしい。
みどりのゴルフの先生は
(中島の言ってたカイダさんのことだ…)
・短く
・テンポよく
・前向きに
そして、
「決断してから、行動する」
ということだけを徹底すればよいことを教わったらしい。
大事なことは「結果そのものではなく、決断に至る過程だ」と
みどり
「私は、地元の国立大学に行くから、これから毎朝7時に学校に来て、壱田くんと一緒に勉強するわ」
みどりは、ぼくが少し高望みしすぎではないかと…
迷っていた大学の名前を口にした。
志望校を人前で言うことは勇気のいることだと思う。
みどりも学校の成績は決して悪いわけではないが、
正直ぼくには
今のテストの順位だと
少し高望みしすぎな気がする。
ぼく
「秀才と一緒に勉強するならともかく。なんで僕と?」
みどり
「壱田くんは、毎日の教室の鍵開け当番をしてるって他の子に聞いたから、
だからそのルーティーンを奪ってはいけないでしょう?」
ぼく
「そういうものかな?」
みどり
「人のことを邪魔することなかれ。己の道をただただ進め」
ぼく
「何それ?それも例のゴルフ部の先生の言葉」
みどり
「そうよ」
みどりの英語のノートの表紙に書いてある文字を見せてきた。
Where there's a will , there's a way.
(意思あるところに道あり)
あぁ、そういえば
「will」には未来形の意味だけじゃないって
Readingの授業で習ったことを思い出した。
やや強引なみどりとの約束により
10月からぼくは毎日、学校に6:50に来て、
鍵を開けて、みどりがくるのを待つようになった。
不思議なことに一人で頑張って、
早起きして勉強しなければらないという
気持ちで問題集を解いている時よりも、
集中力が高まっているような気がした。
挨拶以外に
何かたくさんの言葉を交わすわけではないが、
みどりと同じ教室で勉強することに
「少し楽しみのように感じている自分の気持ち」に気づいた。
学校が休みの日も
みどり
「知識は人に教えることでより深く定着するものよ」
という提案により、
同じ学区の図書館で勉強するようになった。
お昼の弁当を食べている時も、
日本史や生物の問題を出し合ったりした。
みどりのおかげで、ぼくがあまり得意でなかった
暗記科目も少しずつ模試の成績が良くなった。
「ゴルフは個人スポーツだけど、こんな感じで
練習する時は友達と一緒だったらもっと楽しかったかもね。ハハハ」
あるとき、みどりが呟いたことがあった。
(ただ、残念なことに、みどりのゴルフの練習への情熱に
ついていけるものが近くにいなかったのだ)
結局、こんな感じで、
11月になり、
12月になり、
冬休みは図書館で過ごし、
年末年始も受験生らしく過ごした。
僕らはただただ健全な
「同志」のような存在だったのだと思う。
そして、
大学入学共通テスト(旧:センター試験)の当日を迎えた…
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朝起きると体がフラフラする。
体温計を見ると38.5度だった。
携帯を見ると
みどりからメッセージがあった
「壱田くんなら絶対やれるよ!がんばろうね」
ぼくはフラフラな状態で
スタンプを送った。
「もうダメかも」
よりによって、
一番送ってはいけないスタンプを間違えて送ってしまった。
慌てて、訂正のスタンプを送った…
「うまくいく…かも!?」
最初のスタンプで、
みどりを動揺させてしまったかもしれない。
もう一度、メッセージが来た。
「壱田くんなら絶対に上手くいくよ!大丈夫だから!!」
そのメッセージには返信をする余裕もなく
ぼくは何とか試験会場に向かった。