※この物語はフィクションであり、
現実に存在する人物、団体、
出来事とは一切関係ありません。
連続ゴルフ短編小説
- Over The Green -
(第6話)
ーあいつはできる男ー
(高校の卒業式も終わり、それぞれの進路が決まった)
大方の予想通りというべきか、
みどりは第1志望に進学した。
一方、ぼくはギリギリの成績で本来いく予定のなかった
滑り止めの滑り止めの大学に行くことになった。
みどりとは、大学生になってからも
ちょくちょくメッセージのやり取りはしていたものの
直接会うことはなかった。
たまにタケシと会うと
「この前、みどりと食事してさ…」という話になるので、
2人はよく会っているらしいが、どういう話をしているのか?
どういう関係なのか、踏み込んで聞く気にはなれなかった…
大学2年生の夏ころ、タケシから衝撃的なことを聞いた。
タケシ
「あのさ、みどり…この夏からアメリカ行くらしいぞ。
めいとも空港まで見送り一緒に行くか?」
ぼく
「いや、いいよ、ぼくは…」
その日のうちにみどりからも
出発の日を知らせる連絡があったが
「ごめん、ちょっとバイトがあってその日はいけない」
と嘘をついた。
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みどりはアメリカに行ってしまった後も
最初のうちはマメに連絡をくれていた。
自分の父の業界の最先端を学んでいるとか
留学後に趣味で、
もう一度始めたゴルフコース回った話とか、
大学でのパーティの様子とか
SNSに楽しげにアップされていたが、
ぼくからコメントや
何かしらのメッセージをすることはなかった。
そして、たぶん忙しくなったのだろう、
みどりと直接メッセージすることも
だんだんと少なくなっていった。
ぼくはみどりがアメリカに行ってから
アルバイト先のピザ屋の先輩から告白されて
なんとなく付き合ってみたりしたけれど…
「めいと君は本当に優柔不断だね。
最後まで私のことがあんまり好きじゃなかったみたい」
と言われて、
結局1年も経たずにあっさり振られてしまった。
周りの学生たちが
一斉に就職活動をし始めるのに合わせて、
もうちゃんと働かないといけない時期に
来てしまったことに気がついた。
特に何かやりたいこととか、
将来の夢や目標なんて何にもなく、
ただ流されて生きてきた自分には
就職活動は本当にきつかった。
アピールすべき長所もない自分を
無理やり面接対応用に作り上げて、
心にもない言葉を、
なんとかしゃべられるようになった。
何十社も落ちたが、結果的にある会社の
営業職として採用された。
何度も諦めそうになったけれど、
ここで就職できなかったら、
もう一生就職できないという恐れだけで行動していたと思う。
コミュ障である自分に
この仕事が向いているかどうか?
考えれば、考えるほど
「向いていない」という結論に至るのだけれども、
ここしか行くところがなかった。
結婚は「2番目に好きな人とすること」という言葉があるけれど、
結婚はおろか、
仕事も大学も
第1志望も第2志望にすら届きそうもない。
いつしか、「何かを強く望むことはやめよう」と思うようになっていた。
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そして、今、24歳になった。
仕事はあいかわらず営業職だった。
しかも新卒のときと
ほとんど変わらない給料だ。
仕事の成績も低調だったが、
かろうじてクビにならなかったのは…
あまりにも営業成績が悪く、本当にクビになりかけた時に、
追い込まれて
学生時代からの友人であるタケシに相談したところ
タケシの会社であるマツイスマトモ商事との
大口の契約が奇跡的にまとまったからだった。
これは、ぼくの個人の力というよりも、
会社の扱っている商品自体が良かったということと
その商品が奇跡的にタケシの会社のサービス提供のために
役に立つということを、
タケシが自社に対してプレゼンを手伝ってくれたのだ。
タケシは取引先で順調に出世しており、
24歳にして既にリームリーダーを任されていたことも
契約に至った大きな理由だ。
それ以来、
めいとはタケシの会社との担当窓口として
なんとかギリギリのところで会社の中で
「存在意義」を見出している。
もちろん、後輩からも営業成績は大きく遅れをとっていた。
ある日、会社のトイレに行こうとしたところ
後輩二人が中にいた。
中に入ろうとした瞬間、声が聞こえてきた…
「壱田先輩、まじ使えねぇな。
この前のB社のプレゼン資料の数字全部間違ってたし。
どんだけ仕事できないんだ。
あの人、深草さんいなかったら
今頃、即クビだろうな。いつ辞めるんだろうな」
という笑い声が聞こえてきた。
ぼくは避けるように1つ上のトイレに行った…
確かに、
ぼくは「なんのために生きているのだろう」と
時折、考え出すと眠れない時がある。
この仕事が好きではない。
だから夢中にもなれない。
かといってこの会社をやめたら、
どこにももう再就職できないだろう…
だってもう何をやってもダメなんだから…
「ぼくは、なんのために生きているのか?」
きっとそんなこと考えても無意味だと
思えば思うほど
その問いかけが、頭の中でグルグルと回り始める。
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そんな夏も終わりになろうとしていた
ある日
部長に呼び出された。
部長
「壱田。お前もわかっていると思うが、
そろそろ猶予がないぞ」
ぼく
「はい、すみません」
部長
「すみませんじゃねぇだろう…とにかく何でもいいから契約取ってこい!
石にかじりついてでも絶対だぞ。」
ぼく
「いや、でも全然、新規のあてもないですし」
部長
「つべこべ言うな。
だったら、マツイスマトモ商事さんの
ところの深草さんにお願いして
大口の契約とってこい」
ぼく
「はぁ…」
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タケシとその日の夜に飲みに行くことになった。
タケシ
「めいと、お前もいよいよヤバいな(笑)」
ぼく
「…今回は本当にヤバそうなんだよね。
会社の業績はそんなに悪いわけではないけれど、
人員整理の話は噂になっているし。
なんとか、新しい取引先見つけないとクビかもしれない」
タケシ
「お前のところの部長さん、たしかゴルフ好きだったよな」
ぼく
「そうだけど、それが何か?」
タケシ
「俺が幹事やってやるからさ、お前は部長と一緒にゴルフコンペに参加しろよ。
俺がいろんな会社に声をかけておいてやるからさ。
そこでまずは、お前の名前を売ろうぜ。
壱田名人=ティーショットって言えば、みんな名前覚えてくれるから(笑)」
今時…接待ゴルフ??
うまくいくわけないだろう。
タケシ
「いや、大丈夫だ、俺に任せておけ。
それなりに考えがあるから」
ぼく
「いやだよ。ぼく去年、部長とむりやり練習場いって
それからコース行ったけど、途中でスコア数えられなくなって
途中で部長にめちゃくちゃ怒られから。
誘っておいて理不尽すぎるよ。だからゴルフなんて嫌いだよ」
タケシ
「いや、大丈夫だ。必ず良い方向に向かうから。
とりあえず、日付を決めるぞ。
ただのゴルフコンペじゃない。
ネオ・ゴルフコンペだ」
何がネオだよ。
自分が部長たちとゴルフしたいだけじゃないのか??
タケシは、いつも強引だ。
けれども、別の側面から見れば
結果を必ず出すから、
結局人から信頼されるし、
リーダシップがあるとも言われる。
ぼくみたいにどう考えても「価値のない人間」とも
付き合ってくれるのだから、
なんだかんだ言って良い奴なのかもしれない。
ただ、だからこそ、タケシといると
劣等感をいつも感じる。
翌日、部長にゴルフコンペの話を話をしたら
「さすが、深草さんはいろいろよくわかっているな。
それは楽しみだな。壱田、また練習行くぞ」
部長は会社の自分の机の横で
嬉しそうに素振りをし始めた。
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タケシ
「な、言ったとおりだったろ、
部長さんご機嫌だったし。
ただ、あの人って『けっこう昭和』なところがあるよな」
部長さんのレッスンってけっこうアレだろ(笑)」
ぼく
「たしかに、ヘッドアップするな。ボールをよく見ろ。
お前はトラック一杯分ボール打たないからダメだって
言われるよ。営業も気合と根性だって言われるし」
タケシ
「だろうな、だから俺が良いゴルフの先生紹介してやるよ。
まぁ、俺も紹介してもらったんだけどな」
たしかに、タケシはゴルフを始めて数年で
70台のスコアを出せるようになっただけでなく、
ほとんど90以上打たないで
まとめてくる。
「仕事をおろそかにしないとゴルフはうまくならない」
とぼくもきいたことがあったけれど、
タケシの場合はなぜか、
それにはあてはまらない。
何か秘密があるに違いない。
タケシは、すぐにその場で
スマホを取り出して、
地図を送ってくれた。
ん?
ここってもしかして…